はじめてがいっぱい②:藤井健司×大佛次郎「帰郷 Homecoming」                ーめぐる、めぐる旅の途中で

テーマ展示

たてもの

ここ数日で、ずいぶんと秋めいてきました。

記念館脇にある、大佛次郎が愛したキンモクセイ(鎌倉の大佛次郎旧宅から移植)も

ほのかに香ってきましたよ。

早いもので、前期の展示は残すところ、あと1週間となりました(前期10/19まで)。

画家・藤井健司の作品は前後期あわせて12点が出展されますが、映像作品をのぞき、前期と後期は

総入れ替えです!!ここで、是非とも前期の見どころをご紹介したいと思います。

今回の展示は大佛次郎の小説「帰郷」を結節点=むすび目とした、

美術と文学のコラボレーションです。

この「むすび目」に何があるのかご紹介しつつ、そこから歩みをすすめたアーティストそれぞれの人生を「旅」になぞらえ、たどっていきます。

大佛次郎の「帰郷」は、前半は戦中から日本の敗戦直後のマラッカやシンガポールを舞台に、

後半は日本の東京や横浜、鎌倉や京都を舞台にした作品です。

「帰郷」のバックグラウンドには、1943年(昭和18)に大佛次郎が南方(現東南アジア諸国)を視察した際の「日記」があります。

大佛次郎『南方ノート・戦後日記』未知谷(2023)

大佛次郎がクアラルンプールの「バトゥ洞窟」(Batu Caves)を訪れた際には、こんな風に記しています。

  「Batu Caves

これは壮観だった。…三百段とかある階段。左手に4 milesとかあると云ふCaveあり。階段は正面に別のdomeの中へ降る。Chandelier[シャンデリア]の如く垂れ下る強大な鍾乳石。天井に数個の穴ありて外光通ず。昨夜の雨水か、糸の如く数條滴る。domeの高さ200呎[200フィート 約60m]と云へど、あるひはそれ以上あるかも知れず。壁面手のとゞくところに英字漢字を以て人名を記す。支那人のは大がかりに毛筆で何とか桃源と書いてゐる。灰白色の上に唐三彩の緑のうはぐすりをかけし如く苔の色滲みて美し。雄大なる美しさなり。」(『南方ノート・戦後日記』、1943年11月24日より)

滞在中のメモとして書かれ、個人的な感想などはあまり多くない「南方ノート」ですが、ここには詳細な情景描写とともに、洞窟を訪れた際の興奮や感動が大佛次郎の言葉で記されています。

これが、「帰郷」の中ではどんな風に描かれているでしょうか?

引用文のタペストリーがはためく1階ロビー。朗読する大佛次郎の声が聞こえます。

大佛次郎自身が朗読する「帰郷」の一節をBGMに、「帰郷」の世界をお楽しみください!

そして!2階には、藤井健司の作品 ≪Batu Caves≫があります!

藤井健司 ≪Batu Caves≫ 2006年、紙本着彩(個人蔵)

Batu cavesをめぐって響き合う、文学と美術(日記、小説、絵画)の三重奏を

実際にお楽しみください。

ご来館、お待ちしております!!

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