2011年の3月に起きた東日本大地震の災禍は、今現在も我々の前に立ちはだかっています。1923年(大正12)9月、今から90年前に起きた関東大震災も、日本災害史上に残る甚大な被害をもたらし、人々を否応なく人生の岐路に立たせたのでした。
当時26歳の誕生日を目前に控えていた野尻清彦(のちの大佛次郎)は、外務省条約局に嘱託勤務の傍ら雑誌「新趣味」に翻訳掲載するなどし、今後の進路について思いあぐねていました。そして起きた関東大震災。震災は、掲載誌を廃刊に追い込み、すでに役人になることへの関心も薄れていた野尻青年の進むべき道をさらに見えなくしました。
震災後の野尻青年の運命を決定づけたのは、「新趣味」から講談雑誌「ポケット」へ異動した鈴木徳太郎からの“まげ物”執筆の話しでした。大震災の翌年3月に、初めて「大佛次郎」の筆名で時代小説「隼の源次」を発表、続けて書いた「快傑鞍馬天狗 鬼面の老女」で一躍注目を浴びます。この<快傑鞍馬天狗シリーズ>を「ポケット」誌廃刊まで書き継ぎ、その後も「鞍馬天狗」を発表し続け、作品は40年余に47作品が世に送られたのです。大佛次郎は、「ポケット」誌上での縦横な活躍により、その後の執筆活動の道を切り拓くことになりました。
本展示では、第1部として「鞍馬天狗」誕生の裏側を鈴木徳太郎の書簡を中心に様々な資料で探ります。 第2部は、長きにわたり人々と共に歩んできたヒーロー「鞍馬天狗」を紹介し、その魅力に迫ります。
◆主な展示資料
「ポケット」編集者鈴木徳太郎から大佛次郎への封書、鞍馬天狗の長篇第一作「御用盗異聞」原稿、ラジオドラマ「鞍馬天狗」台本など