ポール・ルヌアールPaul Renouard(1845-1924)は19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍した、フランスの画家です。『イリュストラシオン』や『パリ・イリュストレ』、『グラフィック』等の絵入り新聞や雑誌に数多くの挿絵を提供し、ルポルタージュの素描家として人気を博していました。また、パリの万国博覧会では二度の金賞に輝くなど、その描写力や芸術性についても高い評価を得ています。
当館では、大佛次郎の旧蔵資料としてポール・ルヌアールの2種類の版画集『ドレフュス事件』(1899)、『動き、身振り、表情』(1907)所収の作品約300点を所蔵しています。東京国立博物館所蔵の林忠正旧蔵品とともに国内屈指のもので、大変貴重なコレクションです。その中から初公開を含む約40点を展示し、関連する大佛作品・資料をあわせて紹介します。
ルヌアールの版画集『ドレフュス事件』は、世紀末のフランス国論を二分したユダヤ系将校のスパイ冤罪事件をめぐる一連のルポルタージュであり、傍聴席から描いた「ゾラ裁判」「レンヌ裁判」等の歴史的記録となっています。
『動き、身振り、表情』はたった50部しか出版されなかった版画集で、ルヌアールがパリやロンドンの街中でスケッチした、日常の光景を集めたものです。そこでのルヌアールのまなざしは、ごく普通の人々、子どもや動物たちに注がれています。彼が切り取った一瞬の「動き」や「表情」は、時にユーモラスで時に影のある、人間の諸相を映し出しています。
大佛次郎がどのような経緯と目的で、これらの版画を入手したのかは分っていません。しかし、大佛とルヌアールの姿勢には共通したものが見出せます。まず、大事件を扱いつつ市井の人々に目を向けていること。それはフランス第三共和政の歴史を題材とする大佛の作品、「ドレフュス事件」「ブウランジェ将軍の悲劇」「パナマ事件」「パリ燃ゆ」のみならず、生涯をかけた大作「天皇の世紀」においても貫かれています。また、ルヌアールはペンを片手に世界を飛び回りましたが、「文士は必ずカメラを持て」を持論とする大佛もまた、調査のため舞台となる土地に何度も足を運びました。
画家と作家の交差する「まなざし」を発見していただけたら幸いです。
≪展示内容≫
第1セクション 小さき者たち-子どもと動物
第2セクション 前期(7/14-9/19):瞬間の連続
後期:(9/21-11/13):絵になった音(横浜音祭り2016、パートナー事業)
※後期期間中、大佛次郎旧蔵クラシックSPレコードをデジタル音源化したものを展示会場でお楽しみいただけます。
第3セクション 時代の目撃者
≪特別展示≫
「絵になった音」後期:(9/21-11/13)
横浜音祭り2016パートナー事業として、ポール・ルヌアール版画集『動き、身振り、表情』より、「音」に関連した版画「モンテ・カルロ歌劇場指揮者アルトゥーロ・ヴィーニャ」と英国近衛軍楽隊を描いた「国王陛下万歳」を初公開します。 ユーモラスなタクトさばきをお楽しみに。
≪関連事業≫
金子建志氏と聴く大佛次郎 旧蔵SPレコードコンサート
日時:2016年10月22日(土) 13:00~15:00
会場:大佛次郎記念館2階サロン、および1階和室、会議室